2『カレシ』

「兄ちゃん、お母さんが早くお風呂に入れって」
「勉強中。1日くらい風呂に入らなくても死なねえっつっとけ」
「1日くらい勉強しても、試験の結果は変わらないって――。言い返されると思うけど」
「…………」
 椅子から立ち上がったおれが、ドアに向かわないのに気づいた虎之介が二段ベッドのはしごに飛びつく。
 その両足首を握ってV字開脚。
「きゃああっ」
 はしごに両腕ですがりついた弟が、女のような悲鳴を上げるのを聞いて、喪失しかけた戦意を振り起こして右足エンジン点火。
 股間マッサージ開始。
「ひい――っっ」


 机の前にもどっても、教科書を開くでもないおれの肩を、虎之介がぽこぽこ叩いている。
「ばかっ。子ども産めなくなったら、兄ちゃんのせいだ」
 いや、虎よ。
 産むのはおまえの奥さんになったひとだぞ。
「こんなひと、教師にしようとか、お母さんたち間違ってるっ」
 だな。
「暴力反対!」
 うん。
 だからおまえの反撃はいつもかわいくて。
 もっと、いじめられちゃうんだぞー、なんて。
 今はかわいがってやる余裕もないので、ぽこぽこパンチは無視。