「大丈夫です。もうずいぶん前から、助けていただいてます…から」
 なんで来た。
 どうしてここに? 大丈夫か? 
 言いたいことは山とあるけど、すまん。
「あいつ、ダメかっ」
 おれの優先順位を文句も言わず了解した町田はうなづいた。
「はい。かなり」
「そっか……。おれのせい、だな……」
 知らんふりをしてやれば違ったろうか。
 おれにすら見えるほど、やつを追いつめずにすんだのか。
「加藤さん……」
 町田がゆるゆると長い脚を尻の下に引きこんで。
 ちんまりと正座したなりで、胸の前にブリキのバケツを抱えこむ。
「見てる…だけ、なら、おまえが死ね……、ですよ、ね」
「…………」
「おれ、あの…ひと、助けたい、です」
「…………」
「加藤さんみたいに――、助けたい、です」
「…………」
 それでもバケツに顔を突っこんでえずく町田に苦笑い。
 死にかたすら他人の迷惑にならない方法を選んできたバカは準備万端だ。
 なら、おれは?
 木村のカンニングを暴いたおれには、どんな準備があった?

「加藤さん……きれい、です」
 ――は?――
 場の空気は読めないらしい町田の爆弾発言。
「きらきらと…金色、で――。きれい、です」
「…………」
 おれは冷静だ。
 バケツを抱えた病み美少年と、その頭をなでるむさい男のツーショットがどんなに不思議ワールドかも理解している。
 だから――。
 いや、それっておれのことじゃないよ、とか。
 この子、不思議くんだから、とか。
 弁解したい気持ちは、この胸からアフレッシュなんだけど。
 そんなふざけた言葉を封印した視線の威力。
「…………」「…………」
 特にすさまじいのが、2本。吾川と足立。
 今のおれが何色だろうと知ったこっちゃないが。
 背筋を伝い落ちた悪寒は、町田。
 おまえにもぜひ知っておいてもらいたいよ、おれは。