おれの直球は木村の脚に当ったらしい。
「きゃー!」「いやー!」
 机の脚につまづいた木村が、廊下側の一番前の席で、ぺちゃくちゃとしゃべっていた吾川と足立を巻き添えにしてたたらを踏んだ。
「ごめん」
 とりあえず女たちには紳士的に謝った木村は、おれからは泥棒のごとく逃走。
 振り返りもしない。
「木村ぁ。ワイロはレタスサンドでな」
 組成の95%が水でもありがたがられるレタス。
 おれたちの95%はなんだろう。


 理不尽なアンニュイにまみれて廊下に出ると、不条理なアンニュイが待っていた。
「町田! おま…、こんなとこでなにしてるっ」
 廊下の壁に額を押しつけるようにしてうずくまっているのは、顔を確かめなくてもわかる、町田だ。
 力なく身体の脇に下がった手には、なぜか小さなブリキのバケツ。
 そのシュールさを笑えなかったのは、やつが〈吐く〉と言っていたのを思い出したからだ。
 オー・マイ・ガ――!
 ――頼むよ――
 いると信じているわけでもない王女さんが今はおれの――町田の――救世主。
 走りよって頭をなでてやると、町田が真っ白な顔をゆっくりと持ち上げておれを見た。