王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。

 結局、五十嵐は男と別れた。
 たぶん誰かに特別扱いされたかっただけの五十嵐は、母親に号泣され、激怒する母親から逃げることしか選ばなかった男に渡された金で、殺人者になった。
 男の前で破いた札を、きっちり拾って銀行で新札にもどしたという母親のエピソードを、おれたちに話してくれた五十嵐の笑顔は、半分消しゴムで消した落書きみたいにゆがんでいたけど。
 いつか――、心から惚れた男の子どもを産みたいと思う女になってくれればな、とおれは思う。
 もうなにもしてやれない誰かの存在を忘れなければ――、まだなにかがしてやれる誰かに気づけるかもしれないだろ?

 ウマレテキテクレテ アリガトウ なんて。

 恥ずかしげもなく言う親父のような男のすごさを、おれも初めてしみじみ知ったわけだしさ。
 おれはともかく、女のくだらないトークにも、まめに返信してやる町田のような男がそばにいれば、五十嵐はセックスなしでも自分の存在を認められるのかもしれないし。

 でも俺はそんなに甘くないし。
 まったくもって実にうんざりだしっ。
 ことの流れでグループに入れられてしまったSNSで[せんぱーい 今日 音楽室でお昼しよーよー]という五十嵐には、絶対につきあわない。
 はずが――…


「先に食っても、あとに食っても胃がつれぇ」
「そぉ? ドラム叩いてる町田ってかっこいいよねー」
 平然と飯を食いながらリズミカルに頭を振っている五十嵐と、なぜかほぼ毎回並んで飯を食いながら町田をながめている。
 食ったもんが胃のなかで跳ねるような町田の音が、なぜか最近マイブームだから。

 不安定に揺れる。
 それが身体なら、なんだか安心な気がして。
 本当に揺れているのはどこなのか、なんなのか。
 まあ、今は見ないふり。


 * * *

筆者注)
読み切り短編が4本続きます。
Q&Aは読んだんですけど
オムニバスの掲載の仕方がわからなくて……。
完結ボタンを押してもいいのかな?
うーん。