王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。

 伸ばしたおれの腕の先を、黄色いレンズのグラスを決めて、ヒップホッパーのようなヘッドフォンをがっちりと耳にはめた町田の背中が遠ざかる。
「おら、待てって。こら!」
 歩いている男を小走りで追いかける情けなさ。
 ムッとして本格的に戦闘モードに入ったとき、ふと浮かんだイヤガラセ。
 そうだ。
 おれは肉体派じゃない、頭脳派だ。

 短期勝負のブースト走行で追い抜いて、くるっと回転。
 世の中を遮断して、うつむいたまま近づいてきた町田はさすがの運動神経で、上体を折ったおれの唇が唇に触れる前にのけぞった。
「うわっ」
 半歩下がった町田の耳からヘッドフォンをむしり取って。
「間接キッス、してやるか?」
 耳の中に直接イヤガラセを流しこみ。
「…………!!」
 人形のように硬直した町田は、次の瞬間にはおれの肩に強烈な一撃をかまして、おれに尻もちをつかせてくれていた。
「て…めっ。だから暴力はやめろって――…」
 地面についた尻から背中まで伝ったしびれる痛みに、うめきながら起き上がりかけたおれは、路地の植えこみの前でうずくまっている五十嵐と、走り寄る町田のクソ長い脚を見た。