王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。

 待合室で、クソ幸せな妊婦のオバサンたちに、あからさまにさげすみの視線を向けられたのだって屈辱だったのに。
 そのあと問診室に呼ばれたおれが、看護師のオバサンたちに周りを取り囲まれて、医者のバーサンにされた説教の数々。
 高3にもなって、まともにつきあった女のひとりもいない童貞のおれが、日々妄想していた、めくるめくえっちの世界。
 汚れなき思春期真っただ中の男の美しいドリームを、粉々に打ち砕いてくれたリアルな女体構造図と、身もふたもない避妊術の講義。
『まぁいっしょに来た誠意だけは認めてあげるわ』
 言い放たれて。
 もう一生、女なんかとは関わらねえ! と思ったほどいたたまれなかった女の世界から、保護者の同意書類と手術日の予約を取って外に出たとき。
 五十嵐は伸び上がっておれの唇にチューをした。

「ありがと、先輩。あたし、泣きそうに幸せだった。これでママに…言う決心も――ついたから……」
 魂が抜けたままのおれを置いて走り去っていく五十嵐の後ろ姿を、おれは外で待っていた町田とふたりで見送った。
「女って……」
 小さく吐き捨てた町田の意見には100%賛同するけど。なんでここでおれをにらむんだ。
「加藤さんが五十嵐を見捨てなかったのは、加藤さんの純粋な善意だと思ってました」
 いや、マジそうなんですけど。
「弱ってるやつにつけこむなんて、最低です」
「ちょ…」
 お待ちなさい。