王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。

 3歩の距離を1歩でもどって、地面にくずれそうな五十嵐の身体を抱きとめた。
 五十嵐は、おれの腕のなかで、あんあんとガキのように声をあげて泣いた。
 おれたちは完ぺきに帰宅部のやつらや道ゆく人の見せ物になっていた。
 だからって、そんなのがなんだ。
 おれには、人殺しをする女を引き止めるどんな力もない。
 おれは死んでいくガキになにもできない。
 おれにできるのは、いま、腕のなかに抱きしめているバカを泣かせてやることだけだ。
 なにしろこのバカは、町田をぶっ倒したときから笑っていた。
 死ぬ気だったときだって泣く場所もなかったバカだから。



 町田はネカフェで病院を探していた。
「あんまり近くないほうが、いいよね」
「……うん」
 泣きはらした目をふせて、五十嵐がうなずく。
 そんな顔を見せなきゃいけないのは、おれらじゃない。別のクソバカ男なのに。
「おまえ……、マジ言わねえつもりか? 金だってかかるのに。どうすんだよ、ひとりで」
「お金は…どうにか……する。でも――…」
 五十嵐に見上げられて。答える前からわかった気がした自分の返事。
「ひと…ひとりじゃ――、行け…ない」
 しゃくりあげだした五十嵐の肩に手を置いて、町田がおれを見る。
 はあ……。
「わかったよ。行くし」