おれに連絡しろって?
 おれに、わざわざ、自分から首つっこみます! と表明しろと?
 マジいやな野郎。

 はああああああああ。

 盛大にため息をつきつつ校門を出たところで、おれは真っ正面から誰かにぶつかった。
「んもう、先輩。まえ見て歩かないと」
 鼻を押さえて、くぐもった声で怒ったのは五十嵐だ。
「あ。(わり)ィ」
 …って、ナチュラルに謝ってるし、おれ。
「町田ね、東口のネカフェに行ってる。先輩とウワサになっちゃったのに、おれともふたりでいるとこ、見られたりしちゃダメだって。なーんか真面目だよね、あいつ」
「…………」
「今日ね」歩き出した五十嵐は、うつむいて笑った。
「カレシともしたことないくらい、町田とトークしちゃった」
 …ってことは、もうあいつも五十嵐の問題を知ってるわけか。
「先輩には、バカ女って言われちゃったって打ったらねー、町田、加藤さんは優しい人だからってレスしてきたよ。……ほれちゃってんね」
 いや、最後のそれは……。
「あたし、カレシにバカとか、言われたことないよ。沙織はいい子だね、沙織はかわいいねって……。親にも言われたことないくらい、いっぱいほめてもらって…さ」
「いいように遊ばれたってわけだ」
 頭にボン! と浮かんだロリータオヤジ像。
「ひ…どいよ、それ」
 立ち止まった五十嵐を3歩進んでから振り向く。
 五十嵐は笑っていた。
 下まつ毛で大粒の涙を止めながら。
 だから、おれは言わなきゃならない。
 五十嵐が泣けるように。
「人殺しになろうっていう女に、そんなことは言われたくないね」
「…………!!」
 みるみるゆがむ顔から、目をそらさないのだけがおれの誠意。