「あ……」「あ」

 昼休み。おれが町田と出くわしたのは2階の階段踊り場。
 3年生の最大の特典は教室が1階にあることだ。
 遅刻寸前の全力疾走距離も短くてすむうえに、購買も食堂も、当然グラウンドも同じ地平線上にあることの恩恵は計り知れない。
「…………」「…………」
 それをわざわざ、餓えたガキの群に逆らうようにして階段を登っていれば、おれのほうが分が悪い。
「加藤さんっ」
 だからって、こうもあっさり、ここで出会ったことの意味を決めるのはやめろってえ。
 おれは屋上でメシを食おうとしているのかもしれないだろがあああ。
「放課後――、加藤さんも来てくれますよね」
「…………」
 おまえ、それ、語尾が質問形になってねえ。
 断定してるだろ。
「おれ……、こんなにヒ卜が好きだと思えたの…初めてです。感謝ですっ」


 おれは、ぺこりと頭を下げた町田が差し出したものを素直に受け取ってしまうほど、いわゆるボーゼン自失ってやつで、しばらく踊り場のど真ん中に突っ立っていた。
「おーい」おれを現実に引き戻したのは木村だ。
「なんか、すっげーコワイ顔して、おまえが階段をあがっていったって……。なに? なんでこんなとこで突っ立ってんの? おまえ、電波くん? ここ圏外?」
「…………」
 掌で握りつぶしていたものを、ゆっくりと目の前で広げて確かめる。
「……おれ、アドレス、もらっちまった」
「はああ? 誰に? 下級生? うっそ、マジ? どんな子? イケてんの?」
「…………」
 おれらよりはな。
 思ったことは絶対に忘れる。
 くそったれ。