1時間目が古文だったのは運が悪いとしか言いようがない。
 呪文を聞きながら意識を飛ばさずにいるのは、ほぼ不可能。
 おれは、五十嵐がキライだ。
 あんなバカ女、自業自得じゃねえか、と思う。
 なのに、なにがイヤなんだ?
 おれは、どうしたいんだ?
「…………」
 忘れちまえ! と思うのに。
 刻一刻と五十嵐の腹の中でヒ卜になる細胞のことが頭を離れない。
 親になる自覚も意識もないやつの子として、この世に出てくることって幸せか?

 ウマレテキテクレテ アリガトウ

 そんなことを恥ずかしげもなく言う親を持つおれにしてからが、18年も生きてきてまだヒトとしての幸せってなんなわけ? と思うのに。
「…………」
 おまえの存在を、おれは知った。
 おまえの母親は、おまえもろとも、この世から消えようとした。
 おまえの父親は、おまえを知らない。
 おまえに存在する意義はない。
 少なくともこのままじゃ。