とはいえ、意外と生真面目さんだったらしいおれ。
「でえ? 話ってなんですかー?」
 廊下を並んで歩きながら五十嵐に聞かれると、町田に命令されたことが律儀に優先順位の1番上に浮上。
 もっとも五十嵐を見ているかぎり、町田のばかげた妄想を笑いとばせる気配が濃厚なのが、このお気楽気分の元のような気もしないでもない。
「町田がさ」
「うん」
「おまえが自殺しそうだって」
 おかげで身もふたもない言いかたになったのを、ちらっと反省しかけたとき。
 横を歩いていた五十嵐の姿がふいに視界から消えた。
 なに気に振り返ったおれが見たのは、ふわ~っと床に傾いでいく五十嵐。
「うわっ!」



「ごめん…なさい……」
 うつむく五十嵐の横顔から目をそらすしかないおれは、ただひたすらに空を見る。
 ふだんは足を向けることもない専門棟の屋上で、前髪を揺らす風がグラウンドでテニスをしている、どこかの学年の授業風景を音で伝えてくる。
 見ているものはそれぞれちがっても、おれは五十嵐とふたり、それを聞いている。
 この小さな世界がおれたちのいま所属する世界で。
 この小さな世界をすら、おれたちはいま見失っている。