慌ててさっきのキスをなかったことにしようとした。
「無理」
だけど、誠人はそうはしてくれないらしい。
『なんでよ…!』
「無理だから?」
なんで疑問系で返してくるのよ。
「もうこんな時間だし送る」
そう言われて時計を見ると針は9時前を知らせていた。
もうこんな時間…
『その前にお茶頂く』
出されたモノはしっかり貰わないとね。
テーブルに置かれた紅茶とクッキーを美味しく頂いて私は送ってもらうため北条家を後にした。
もちろんママさんにはしっかりと挨拶をしてからだ。
その時にはもうサオリさんの姿はなかった。
『バイク?』
「ん?あぁ。俺4月誕生日だから」
送るってことでガレージに踏み入れると、そこには黒のバイクが置いてあり、大事にされてるのが見て分かった。
『このバイク、カッコいいね』
「…さんきゅ」
「へぇ、可愛い子だな」
『っ…誰ですか』
「間抜けな顔もか~わい~」
誠人からメットを受け取ってそれを被ろうとしたとき背後から掛かった声。
いや、誰だコイツは。
それに振り返ると長身のスーツを身に着けた男が立っていた。
ご職業はホスト、かい?
いや、本当そうにしか見えなくて…てかなんで北条家の敷地にいるの?
まって…まさか…
「兄貴、仕事はどうしたんだよ」
゛兄貴゛ですよねー。
よく見たら誠人と似てる部分あるし。
金に近い茶色で無造作にセットされてる髪に誠人同様整っている容姿…だけども誠人よりもチャラいという印象を与えてくる。
申し訳ないけど、こういう男はシカトするにかぎる。
『誠人帰ろう』
「あ?あぁ」
「あ~あ、子羊ちゃんに嫌われちゃった」
誰が子羊ちゃんだ!気持ち悪い。
そう呼ばれたことに足の先から頭の先まで鳥肌が立った。
この人苦手だと思いつつ、受け取ったメットを被ると誠人の愛車に跨った。
「誠人」
北条兄は弟を呼ぶとヒソヒソと何やら内緒話を始めた。
もう何なの。
私、この北条兄を好きになれなそう。
ようやく話し終えた誠人は私の元へ、兄は家の中へと入っていった。
『話はもういいの?』
「あぁ」
誠人はその一言だけ口にしてバイクを走らせた。



