何度か角度を変えた時、再びガラス越しにドアを見ると彼女の姿はもうなかった。
『も……いいよ』
そして私たちはゆっくりと体を離す。
「助かった。ありがとな」
『どういたしまして』
「けどキスはビックリしたわ。つか、声…」
『演技、上手かったでしょ?』
「あぁ。いや、じゃなくてヤバすぎだろ…」
最後の方は濁しながらそっぽを向いてしまった誠人。
その耳は赤みを持っている。
可愛い、そう思ったけど口に出してしまうと怒られそうなのでこれは心の中にとめておくことにした。
それにしても、てっきり唇にやるのかと思ってたけど、誠人がしたのは唇の端だった。
その後の甘い声は、女優負けず劣らずの演技。



