【久志side】
俺の目の前で喧嘩をしていても仲良さそうな2人。
俺の事なんか頭の隅にもなさそうで、存在なんて絶対忘れてる。
そんな2人が羨ましい。
喧嘩してても幸せそうな顔をしている沙夜先輩を見て、心がズキンと痛む。
吹っ切れた、はずなのにな。
なんて思っていても俺はまだ沙夜先輩に向ける想いを消しきれてはいない。
こんな気持ちになったのは沙夜先輩が初めてで……初めてこんなにも欲しいと思った。
遊び半分で告白した1年前。
遊びのはずだったのに、たった数日で沙夜先輩に惹かれてしまっていた。
蓋をしようとしても、閉めることができなかった。
校内で見かけてもただ見てるだけ。
誠人と付き合ったと知った時、長続きはしないだろうと勝手に思っていた…けどなぜか2人は惹かれあっていて誰にも裂けることのできない仲になっていた。
2人が離れることはないだろうと知った時だ、俺の心にポッカリ穴が開いたように感じたのは。
穴が開いたそこからは風がヒューヒューと吹き抜けていき、冷たい風が余計に俺を寂しくさせた。
沙夜先輩が好きだった。
沙夜先輩が欲しかった。
沙夜先輩に触れたかった、キスしたかった。
俺にしか見せない顔を見たかった。
だけどその願いはもう叶わない。
俺のものにならないことを知っているから。
俺には見せない、誠人にしか見せない顔があることを俺は知っているから。
俺じゃあ幸せは満たされないと知っているから。
だから…いい加減この想いには蓋をする。
沙夜先輩にはもっと幸せになってもらいたい。
それを俺は遠くから見守ってる。
だけどさ…
『久志くん!ありがとう!』
____その笑顔だけは俺だけに向けるものだって知ってる。
【久志side end】