【千也side】
愛車を駐車場に止め家の中に入ると、まだ誰も帰ってきておらず俺は自室へと入った。
ふとテーブルに目をやると1枚紙が置かれていて、手に取って目を通し始めて眉間に皺が寄った。
「んだよ…これ」
その紙にはこう書いてあった。
“お兄ちゃんへ
私は今日、礼のストーカー女と男3人に拉致されたけど、誠人と魑櫻って族が助けてくれて未遂で終わった。
でも怖かった、気持ち悪くて仕方なかった。
お兄ちゃんがストーカー女を近づけないか、私にもう関わらなければこんなことにならなかったかもしれない。
もう、過ぎたことだからいいよ。
過ぎた時間は元には戻せないから。
しばらくの間家に帰らない、だけど死ぬなんてことはしないし危ないとこにもいかないから心配はいらない。
お母さんと正一さんにもそう伝えて。
沙夜”
そこで文は終わった。
俺の頭は、ストーカー女のせいで拉致られたってことでいっぱいで他のことが入ってこず頭が回らなかった。
ようやく他のことを考える余裕ができたのは15分後か1時間後か、はたまたすぐだっかもしれない。
親父たちにも何か残してるんじゃねーかと思いリビングへと急いだ。
「あった」
リビングにあるテーブルの上にも1枚置かれていて、それには“しばらく家を空けます。だけど心配しないで、探さないで”とそれだけ書かれていた。
さすがに親父たちにあの内容は書けねぇよな。
沙夜に電話を掛けてみるが、電源が入っていないようで無機質な女の声が流れるだけ。
俺の電話には出ないつもりか。
相当嫌われてるな俺、と自嘲すると親父の番号に電話をし沙夜が俺のせいで家出したことを伝えるとキレられ「帰ったら説明しろ」とドスの利いた声で言われた。
___2時間後、親父は瞳さんと一緒に帰宅してリビングで話し合うことになった。
「それでお前のせいで沙夜が家出ってのはどういうことだ」
昔ヤンチャしてたらしい親父のそのドスの利いた声は、ビビっちまうほど怖くてそんな親父の一面を初めて見た瞳さんは驚いている。
驚くだけって…ビビることはないのかよ、とこっちが驚かされた。
俺は紙に書いてあったことを言葉を選びながら2人に話した。
「なるほど。で、その女は今どこにいる?」
「それは、分からねぇ」
そんな詳しいことまでは書いてなかった。