期間限定恋人ごっこ【完】番外編



「あぁ」

『ユカにもお礼…言わなくちゃね』




頑張って声のトーンを上げて、明るく振る舞ったのに「無理してんじゃねーよ」といとも簡単に見破った彼には本当に敵わない。



誠人は「泣けよ」と頭を抱き寄せてくれたけど不思議なことに涙は1粒も流れなくて、頭の中は“例の言葉”でいっぱいで、涙を流す隙が見当たらない。



泣かないと分かったのか、誠人は頭を優しく撫でてくれた。




「沙夜、どうする?」



どうするって何が?

言ってる意味が分からず首を傾げれば「家に帰るか?」と訊かれた。



家…帰りたいけど今はアイツが…。
いや、そんなの気にしていられない。



『帰るよ』



そう告げて立ち上がると、鞄を手にしてリンさんとヨウスケさんに礼を言って深々と頭を下げると、誠人と部屋を出て…目を見開いた。



そこは沢山の不良たちでいっぱいだったから。

ここは魑櫻の溜まり場?倉庫だろうか?


十二分大きいはずの倉庫のフロアを埋め尽くすのは不良、不良、不良。



どこを見ても不良だらけで、この倉庫が少しだけ小さく見えてしまう。



この人たちはリンさんの部下なんだろうか。



カンカンと鉄の階段を降りると必然的に注目を浴びてしまい降りずらい。



降り切って出口に向かってる途中すれ違う人たちにもお礼を言うとクシャッとした、その見た目からは想像もつかないほど可愛らしい笑顔を見せてくれた。


案外いい人たちなのかもしれない。



「誠人さん」「北条さん」と誠人のことを知ってる人も多いみたいだし、それに誠人はどうやらこの不良たちに慕われているらしい。



明らかにほぼ年上の人ばっかなのに、慕われてる理由は中学時代ヤンチャしていたからだろう。



通り名っていうのもあるみたいだし。



倉庫を出ると毎朝見る誠人のバイクが止められて、あってメットを被りいつものように後ろに乗った。



乗せてもらったが正しいけど。



「お前熱あるだろ」

『うん…』



隠していたつもりだけどバレていたらしい。



「すぐ家に連れていくからもう少し耐えろよ」

『…うん』



そう返事して家に着くまでその温もりを感じていた。



___沙夜、と聞こえた気がして顔をあげればいつも間にか家の前。



いつ着いたんだろうと疑問を抱きながら誠人にバイクから降ろして中もらい、中まで支えてやると言ってくれたけど丁重にお断りして玄関までにしてもらった。




「本当にここでいいのか?部屋まで運んでやるよ」

『ううん。大丈夫…』




お母さんがいるからとワザとらしい理由をつけて玄関で彼を止める、ドアノブに手を掛けるとそれを回そうとはせずゆっくりと誠人の瞳を捉えた。



私の雰囲気が変わり真剣な顔に何を感じたのか、誠人は「何を言うつもりだ」と言わんばかりの怖い顔。



気を抜けば今すぐにでも腰を抜かしてしまいそう。