「ねぇアンタ」
あ、アンタ?
この女性の第一声に超絶ムカついた。
初対面の人間に対して上から目線、見下したような態度、それに“アンタ”はないでしょ。
この人ヤバい人なんじゃないの?
「千也のなんなの?なにあたしの千也に近づいてんのよこの泥棒猫」
『はい?』
ちょっと待て、とりあえず待て。
この人何言ってるのか意味分かんない。
いや、分かるんだけどやっぱり頭おかしいんじゃないの?って思う。
それに“泥棒猫”とはどういうことよ。
私がアイツを盗ったって言うの?
盗るわけないでしょ。
『貴女なんですか?いきなり来てその言い方はないでしょ。人としてどうかと思いますけど』
クズ人間の見本ですか。
あぁ、この人のせいで口が悪くなってしまう。
女は私にそう言われ顔を赤くすると「あたしは千也と同じ大学のカヨよ!だから千也の何なの!?人の男盗りやがって」と喚かれてしまった。
そのおかげでありがたいことにさっきよりも注目を浴びちゃっている。
『何って妹ですけど』
と本当のことを言ったのに。
「何見え透いた嘘ついてんのよ!見たのよ、アンタが誘惑して千也がキスしたのッ」
見え透いた嘘ついてないんだけど。
この人再婚したことを知らないのか。
ていうか誘惑した覚えないし、アイツが勝手にしてるんだし、というか半ば無理矢理ね!てかもうしないし!
この人勘違いしてんの?
『それに貴女は彼女なの?なんなの?』
「違うわよ!けど千也はあたしのなのよ!」
この人言ってることが滅茶苦茶だ。
本当、頭どうかしちゃってる。
「もう千也に近づかないで。聞かなかったら…罰を与えるから」
カヨという女はそう言って車に乗り込み直し去っていった。
『何なの…』
そのすぐ後、誠人が来て一緒に帰路を辿った。
その帰り道、誠人に「変な女が来たんだよね」と、ついさっきあったことを説明した。
すると誠人の顔がすごいことに。
「千也のせいじゃねーか」
そう、まさにその通り。
千也のストーカーまがいな女がいるから私がとんだとばっちりじゃない。
マジでアイツと関わんのやめろよ、と言う誠人だけど無理じゃんと言ったら一緒に出掛けたりとか2人きりになるのを止めろと強く言われた。
2人きり、か。
確かにそうかもしれない。
あの女がキスしたのを見てたって言ったの、千也と2人きりの時だろうし、きっと大学に行った時のことだ。
家の中でも警戒心丸出しにしておこう。
帰ったら部屋の中に籠るか、お母さんがいるリビングにいるか。
まぁ、その時の状況次第。
ユウの家に行き、置いてあるバイクに跨ると福澤家へと帰る。
走るバイクに乗ることで感じるのは気持ちいい風で、私はこの風が大好き。
自然を感じるって“生きてる”って思えるから。
「着いた」と言われると、もう着いたの?て思ってしまう。
だってもっと乗っていたいじゃん?
渋々メットを外して渡すと門を潜ってドアノブに手を掛ける。
でもやっぱりまだ離れたくなくて振り返って、誠人に駆け寄った。
バイクに跨る誠人に背伸びをしてキスをすると「愛してる」そう言ってそそくさと家の中に入った。
そして誠人がしてやられた!と頭を抱えてるなんて自己満足している私は知るはずもない。
家の中に入ると玄関にお母さんの靴と千也の靴があり、溜め息が溢れ出た。
ただいま、と言ってリビングに行くとキッチンで夕飯の準備をしているお母さんを見つけ今日の夕飯は何?と訊けばスパゲッティと私の好きなメニュー。
じゃあ先にお風呂入るね、と言って2階にある着替えを取りに行くと向かいの部屋のドアがガチャリと開いた音がして1つの足音が私の部屋の前で止まった。
「沙夜」
『入らないで』
何を言ったって、何をしたって私のテリトリーには入れない。
『ていうか、アンタのせいで変な女に怒鳴られて忠告されたんだけど』