「もはやストーカーだ。ヤバいことが起こる前に手を打った方がいい」

「分かってますよ」



ストーカー?
千也の奴はどうやら1人の女に付きまとわれているらしく、突き放してもいないみたいだ。


そういう女は早く突き放さないと怖いよ、恐ろしいよ。



『それに私を巻き込まないでよね』



千也に向かって言うと「あぁ」と短い返事が返ってきて、その時の表情は苦しいものだった。


そんなに困っているんならヤバくなる前に警察にでも届ければいいのに。



「行くぞ」と言われ手を引かれると引きずられるように部屋を後にした。



『ちょ、歩くの速い!』


こっちが大股で歩かなきゃいけないから足が痛いのよ!

千也の一歩は私の半歩だってことを分かってほしい。



若干小走りになっていた私だった。

ようやく歩幅を合わせてくれた千也の顔は険しいままで、お母さんたちにその顔で会うの?と思った。



『お兄ちゃん』

「……」


あーもう、いい加減人の言うことを聞けって。


『千也ッ』


初めて名前を呼んであげればピタリと動きを止めゆっくり振り返った。



「…名前」

『何よ。てか、その顔どうにかしてよ』

「は?」

『そんなみっともない顔で食事するの?やめてちょだい』




折角のご飯が美味しくなくなる。


「悪い」と呟いた千也は車の前に来ると助手席を開けてくれた。



運転席に乗り込んでキーを差し込むとエンジンを掛けずにこちらを向き「もう1回呼んでくれねぇ?」と言った。



本当はすごく嫌だけど…お母さんと正一さんにこんな顔で合わせるわけにもいかずに渋々「千也、機嫌直して」と言うと目の前の男はクツリと笑うと___…




「…元気でた」




左頬にキスをした。


これは角度によっては唇を重ねているようにも見えるかもしれない。


『なッ…何してんのよ!』


車の中で騒ぐ中、その様子を1人の女が見ていて恨めしそうな顔をしているなんて知る由もない。



私の身の危険はすぐ傍まで迫っていた。