千也が一方的に話しかけてきて適当に相槌を打つこと15分程度…「着いたぞ」という声に顔を上げてみれば立派な校舎が目に入った。
それはテレビでも見たことのある有名な大学で学生たちが本を抱えてあっちへ行ったりこっちへ行ったりと少し忙しそうだ。
「ここ俺の学科な」
という千也曰く、今は研究の成果を発表しないといけない時期らしく、その研究をまとめることで大変忙しいそうだ。
大学生って大変だね、とコメントする私は他人事。
それよりもこの男の方は大丈夫なんだろうか?
「お兄ちゃんはやったの?」と訊けば「とっくにできてるよ」と余裕の笑みを返された。
さすがエリートですこと。
車を降りて大学内を歩くと浴びせられる視線。
そのどれもが絶滅種を見たかのように大きく目を開きヒソヒソと隣にいる人と話し出す。
その話声の中で聞こえたのは「ついに年下」「相楽沙夜じゃね?」という言葉たち。
ここでも私のことを知っている人がいるのか…と重たい溜め息が出た。
千也の後ろをチョコチョコついていったのは教授の部屋らしきドアの前。
千也はドアを3回ノックすると男の人の「入れ」という言葉を聞いてドアを開けた。
「福澤か。用紙ならそこにあるだろ」
「教授サンキュ」
「あぁ。ところでそのお嬢さんは?」
私のことだよね?まぁ私しかいないんだけどね。
私は自己紹介をしようとした、なのに千也は私の口を手で塞ぎ。
「あぁ。俺の女」
とんでもない誤解を教授にさせてくれた。
俺の女?ふざけないでよ。
『ぷはぁッ、違います!コイツの女とか冗談じゃないです!』
口を塞いでいた手を無理矢理どかして教授にそう言うと、教授は声を出して笑い「嬢ちゃんは喜ばないんだな」と言った。
喜ぶ?それどころか吐くわよ。
『私はコイツの妹です』
「妹?福澤お前妹いなかったよな?」
「はぁ……前はですけどね」
「“前”は?」
この教授知らないんだ。
『私の母とお兄ちゃんの父が再婚したんです』
「そういことか」
「どうして教えてくれなかったんだ」という教授に千也は「言う必要ないじゃないですか。知ってどうするんですか」と言い返していた。
必要としていた用紙を取った千也は部屋を出ようとした、その時教授は口を開いた「例の女がお前を探してたぞ」と。
例の女の子?
それを耳にしたとき眉間に皺を寄せた千也は溜め息を吐いた。
またかよ、と小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。
「あの手の女はしつこいし怖いぞ」
「あぁ」