【福澤 千也side】
夜、帰宅すると玄関に「ただいま」と俺の声がやけに響く。
沙夜はとっくに帰ってるもんだと思ってた…けど沙夜のそこにあるはずのローファーがない。
帰ってねぇのか…?
リビングに入りソファーに座る親父の横を通り過ぎ、キッチンにいる新しい母親、瞳さんに近づくと「沙夜は?」と訊いた。
「沙夜?沙夜は彼氏の家にお泊りよ」
俺の息が___時間が止まった気がした。
俺が反応するよりも早く反応したのは親父だった。
「彼氏!?泊りだって!?」
「えぇ。明日は彼の家から学校に行くみたい」
「聞いてないぞ…」
と肩を落とす親父。
だけど俺の中の黒い渦はそんなもんじゃない。
あの男の家に泊まりに行った?
なんでだよ。何でこの家の…俺の元に帰って来ねぇんだよ。
まさか2人きりじゃないよな?
2人きりじゃなくとも同じベッドで寝んのかよ?
ふざけんなよ。
それにもし2人きりなら、今夜“何か起こっても”おかしくない。
それを考えた瞬間、俺の中の何かがなんとも言えないものに襲われた。
沙夜に触れることができるアイツが羨ましい。
沙夜を抱きしめられるアイツが羨ましい。
沙夜の笑った顔、泣いた顔、怒った顔を見ることができるアイツが羨ましい。
沙夜にキスできるアイツが羨ましい。
沙夜の全てを愛することができるアイツが心底羨ましい。
俺だってあの声で「千也」って呼ばれたいし、あの瞳に映りたい、笑いかけてもらいたいし、悲しいことがあればこの腕の中に閉じ込めて思いっきり泣かせてやりたい。
触れたい。
キスしたい。
優しくて甘く囁いて…滅茶苦茶にしたい。
___それができるアイツが羨ましい。
あぁ…俺すげぇ嫉妬してる。
20歳の俺が、年下に興味持たなかったこの俺がこんなにも欲しいと求めて、すげぇ嫉妬して…昔の俺ならあり得ねぇことばっか。
2階にある自室に入ると乾いた笑い声が響いた。
「俺…すげぇカッコ悪い」
【福澤 千也side end】