「もしもし、沙夜?」

『あ、誠人。今日は迎いらないから先に学校行ってていいよ』




本題を伝えれば「あ?んでだよ」と急に不機嫌な声に変わった。

うーん、ちゃんと伝えなきゃだよね。



『実は昨日お母さんの恋人のお家に泊めてもらいまして…』

「で、今その人の家にいるから迎えはいらねぇって?」

『うん』

「わーったよ」



折れた誠人は「気を付けて来いよ?」と告げてプツリと切れた。

私の手に持つそれからはツーツーと無機質な音だけが鳴っていて、ケータイを鞄の中に入れ下着と何故かクローゼットに入っていた制服を手にして風呂場がある1階へと下りていく。



リビングはすでに明かりが灯っていて、中を覗いてみるとキッチンにまさかのお母さんが立っていた。




「沙夜どうしたの?早いじゃない」

『おはよ…うーん、ちょっとね』


まるで今までこの家に住んでいたかのような雰囲気。


「そうそう!昨日正一さんに指輪貰っちゃって“結婚しよう”って言われちゃったの!」




それにこのお家も素敵よね~、と続けたお母さん。


プロポーズされたことを興奮しながら話す母だけど、元々結婚前提のお付き合いだったんだよね?と思った私。



だけどまぁ幸せになったんならそんなの別にいいけど。




「それで今日婚姻届けを出しに行くからこれで正一さんと千也くんとは正式に家族よ」




優しい声色で言うお母さんは本当に…心の底から幸せそう。

ていうかマジで千也と兄妹になっちゃうのか…何か嫌だな。



チャラくて軽い男だというのは分かってたけど、優しく気の使える男だったというのもまた事実。



何か、複雑だ。



「お風呂入ってくる」とお母さんに告げてリビングを出るとそこらにある扉を適当に開けていって風呂場を見つけると頭、体と順番に洗っていく。



何故かこの家は物揃いが良すぎる。



それは多分、正一さんがお母さんと私の為に揃えてくれたものなんだろうけど量がすごいよね。



マンションから何も持って来なくてもいいくらい揃ってるからお金いくら使っちゃんだろう、とか考えてブランド物のシャンプーやコンディショナーを遠慮気味に使ったりして少しやりづらい。



それでもこの生活にはすぐに慣れると確信していた。

慣れって怖いよね。




『やば…早くでないと遅刻する』