『んん…』



夢の世界からだんだんと現実の世界に戻されていく。


視界もぼやけていたものからクリアになっていき、目の前にある物がはっきりと…。




『は?』




目をパチクリとさせ数回擦ってみるけど、目の前にある顔はやっぱり本物で夢なんかじゃなく、千也の素晴らしく整った顔がある。



しかもこの男は上半身裸で、これまた素晴らしい肉体を見せつけ、その逞しい腕で私を抱き枕にして規則正しく呼吸をしながら気持ちよさそうに眠っている。



『ふざけん、なッ』



どうにかしてこの腕の中から脱出すべく体を捻ってみたり、腕をこじ開けようとするが逆に力を強めてきてさらに抜け出せない状態に。



嘘でしょ…これはまずいって。



本当は起きてるんじゃないかと顔をじっと見るけど、熟睡していて起きる様子はない。



くすぐり攻撃は…起きない、少し叩いてみても起きない。



最終攻撃はいつも誠人にしているみたいに囁くしか…いやいや、でもあれは誠人だけにしかやらないとこの胸に誓ったからやるわけにはいかない…どうしよ。



『……』

「…スー…スー…」

『起きて』




ていっても起きないからどうしたもんか。
やっぱり…少し、少しならいいよね?大丈夫よね?


本当は嫌だけど…少しだけだから。

そう呟いて自身の身を千也の耳元へと近づける。



『千也起きて。そしたら1つ言うこと聞いてあげる』



誠人に囁くように囁くと男の体がピクリと動いた。

そして、



「…本当、か?」



何をしても起きようとしなかった男が誠人専用の起こし方で見事目を覚ました。


そして私に問う男の顔はこれでもかってほど真剣だ。



男ってみんな同じよね…考えることが。
誠人とこの男が同類だなんて考えたくないわ…。




『バーカ。嘘に決まってんじゃん。それじゃ、じゃあね』




上手く千也の腕の中から抜け出せた私はべーっと舌を出して千也の部屋を出ると、昨日教えてもらった自分の部屋へと入っていった。



手の中にあるケータイを見れば現在朝の6時半。



誠人はすでに起きている時間で、誠人が家を出る前に今日は迎はいらないということを伝えるべく誠人の番号を探して電話を掛けた。