「なぁ……あのよ」


今度は何故か言いにくそうにしている。
そして彼は言った。



「まさか…初めてってことはないよな?」



私に大きな爆弾を落として流していた涙をピタリと止めた。



想ってもみなかった言葉のせいで見事に止まった私を見て千也は「マジ?」ともう一度訊いてきた。



そんなの…そんなの答えられるわけないじゃん。
ていうかアンタなんかに教えたくもない。



千也の問いに答えず、ただ固まってさらには“初めて”という言葉に顔を赤くしてるだろう私を見た千也は問いの答えを肯定と受け取ったようで「嘘だろ…」と小さな声で零した。



私が赤くなったと思ったら今度は千也が赤くなる番で、さっきまで澄ましたり意地悪な顔をしていたものはどこへやら、みるみる赤くなって片手で顔を覆った。



な…何?この人どうしたの?


赤くなった意味が分からなくて脳内にハテナマークがビュンビュン飛び交う。



「なぁ沙夜」

『……何』



いくら優しい声色で話し掛けられようと許さない。

今更なんなんだって思う。




「あの男ってマジで彼氏?」

『何言ってんの。当たり前よ…』

「いつから」

『1ヶ月前』




答えてあげれば考え込む千也は30秒ほど考えてハッとした。



「アイツ、北条誠人か?」

『そうだけど…』

「それ、」

『真面目にちゃんと付き合ってるから。ふざけたこと、これ以上言わないでくれる?』




私にとって良くないことを言うかもしれないと悟った私は、千也の言葉を遮ってそう言った。



誰が何を言おうと私は誠人とちゃんと真面目にお付き合いというものをしている。


それに私も誠人を愛していれば、誠人だってちゃんと愛してくれているはず。



キス止まりだけど…キス以上のことは一度もないけどちゃんと愛し合っているし誰の心配もいらない。



一応今日私から爆弾を落としてきたから誠人がどうでるかってだけ。




『…っひく…うぅ…』



今日はもう心が不安定だ。



「もう泣くなよ」とか「いい加減泣きやめ」だとか千也は言うけど、そう言われたからって泣き止むはずもなく…ただひたすら涙を流す。



「うっ…ふぇ…」と泣いていれば千也は「あーもう!」と頭をガシガシと乱暴に掻いて、




「悪かった。だからもう泣くな」




抱きしめて___耳元で囁いた。



そして小さい子をあやす様に規則正しく背中を叩いてくれる。


段々と嗚咽もなくなって、涙もおさまってきて…眠くなってきた。



大きい手が落ち着く、規則正しくたたかれる背中のそれが夢の世界へと私を誘う。



三大欲求のうちの1つに勝てず、私の瞼は段々と落ちていって閉じてものの数秒で私は完全に夢の中へと落ちていった。


あぁ、もうヤダ…一度流してしまった涙がまた溢れだしてきた。