『誤解?』
「あの女がキスしてきたんだよ。無理矢理、不意打ちでな」
別に信じないわけじゃないけど、あんなガッツリなキスシーンを見せられたら少しは疑いたくもなってしまう。
悪いけどちゃんと信じるよってことはできない。
だけど結果は想いは通じて付き合えたし、いいやとさえ思った。
『それに消毒したし』
そう呟いた言葉は誰の耳にも届かなかったけど別にいい。
あれは嫉妬した私の可愛くないキスだから。
「じゃあ沙夜ちゃん帰るか」
『へ?』
突然手を引いたリンさんに驚いた。
リンさんが私の手を掴んだため誠人が「触んなよ」とイラついた部分を見せてきた。
そ、それに帰るって?
「俺、沙夜ちゃん送り届けてる途中なんだよ」
あ、そうだった。
リンさんとヨウスケさんに送ってもらってる途中なんだっけ?と忘れてしまっていた私は酷い奴だと思う。
私の手を掴んだままのリンさん。
そんな彼の手を誠人は叩き落として無理矢理離すと「俺が送る」と発した。
正直私自身も真後に送ってもらいたいという気持ちがある。
本当リンさんには悪いけど…。
そんな私の心を悟ったのか、リンさんは「はいはい譲ってやるよ」と言ってヨウスケさんとユカを送って行った。
何ともあっさりと行ってしまったな。
「……」
『ねぇ…』
「まだ訊きてぇことあんのか?」
『…ない、かもしれない』
「なんだよ“かもしれない”って。…なら帰るか」
『うん』
手を握ろうとしたのか誠人の手が私の手に触れ、思わずその手を引っ込めてしまった。
あっ…と思ったとき、誠人が悪いと謝ってきた。
こっちの方がごめんなのに…。
そんな悲しい顔をさせようと思ってやったわけじゃないよ。
謝罪の意味も込め、今度は私の方から大きな手を握った。
一瞬びくっとしていたけど、しっかりと握り返してくれた。
「繋ぐの、嫌じゃねぇの?」
『嫌じゃない。ただ、恥ずかしいなって思っただけだから…』
想いが通じる前と通じた後じゃ意識の仕方が少し違うから。
『ねぇ…キスして…』
「沙夜」
『でも、さっきみたいな激しいやつじゃなくて優しいキスして…?』
「んなの保証できねぇよ」
『ちょっ…』
保証できないって言ったくせに、優しいキスが降り注ぐ。
やっと伝わったこの想いを彼は確かめるように…もう離しはしないようにとキスとする。
私はそのキスに答えるも、彼の方が何倍も上手くて私の何もかもを飲み込んでしまうほどクラクラする。
優しかったキスは段々と激しさを増し、甘く深くなっていく。
誠人の宣言した通り、最後まで優しいキスなんて保証できないものらしい。