だから逃げることを選ぶの。
「逃げんな」
長くて、逞しくて、温かい手が伸びて…
「逃げるんじゃねぇ」
___壊れ物を扱うように優しく包み込む。
「ケリをちゃんとつけろ」
綺麗な顔が近づいて。
「俺が傍にいる」
魔法の言葉が私を動かす。
誠人の言葉は本当に魔法の言葉で、自分の意志では動かないのに誠人だといとも簡単に動いてしまう。
今だってそう、誠人に手を引かれながらだけど足はしっかりと逃げ出したファミレスへ向かっているし。
一歩、また一歩進むたびに心臓が跳ねる。
どうにか話題はないものかと考えると席に案内されたとき、本来は綺麗な顔をしているのにボロボロの顔で座っていたアイツを思い出した。
『ねぇ…名倉の奴、なんであんななってたの』
「昨日俺がヤッた」
昨日?…それって、一緒に帰れなかった理由はこれ?名倉を探し出してボコボコにするため?
確かに昨日女子高生の口から誠人と金髪イケメンって単語は出てたけど。
唖然として口が開き閉じれずにいると「先に手ぇ出して悪かった。けど怒んなよ」と怒っていると勘違いされた。
別に怒ってるわけじゃない。
やっぱり元不良なのだと…その拳でアイツを殴ったのだと思った。
ただ、喧嘩してる姿だけは見たくないと思ってしまった。
店の中に入ると、さっきの席までトボトボ歩く。
席の前まで行くとやっぱり名倉が座っていて、整っていた顔は青くなったり切れていたりしていて痛々しい。
思わず目を背けてしまう。
腫れた瞼、切れた唇、青黒くなった口の端や目元、ガーゼを覆われた額…前の面影なんて感じられなくてまさに別人。
そんな男の前に腰を下ろし、誠人は隣に座った。
すると名倉が切れた口を震わせた。
「…沙夜」
名前を呼ばれただけなのに気分が、いい気しない。
何、とぶっきら棒に冷たく言うとポツポツと謝り始めた。



