彼が発破をかけてくれなかったら、きっと私はこの案件の担当を降りていただろう。
それだけ落ち込んでいたし、やるせない気持ちでいっぱいだった。

だけど、それを掬い上げてくれたのが水瀬の言葉だった。

私なら出来ると、『社長の息子』のカードなんか使わなくても大丈夫だと、そう言ってくれたから。


「自分がこんなに嫉妬深いなんて思わなかった」

ゆっくりと私に視線が移される。
それにつられるように、私も俯いていた顔を上げてしまった。

切れ長の目が私を真っ直ぐに射抜く。
瞳の奥に熱を持ち、じっくりと追い詰めてくるような鋭さがある。

「水瀬…」
「もう逃げるなよ」

テーブルに無造作に置いていた私の手に、一回りも大きな水瀬の手が重なった。
お酒を飲んで火照っているはずの自分よりも、さらに熱く感じる水瀬の手。

咄嗟に引くことも叶わず、ぎゅっと握られ、戸惑いに視線が彷徨う。
こんなの誰かに見られたらなんて言い訳したらいいのか。

そんな私の心配を他所に、集まっている同期の注目は隣のテーブルの主役に集まっている。

それでも手なんか繋いでいるところを見られれば、周りに追求されることは必至。

なんとかこの手を離してほしいと伝えようとした時、唇にあたたかな感触がした。