私と水瀬の間の空気をこんなにした張本人がいい気なものだと恨みがましく思っても後の祭り。

今日はこっそり帰るなんてことも許されないだろうと逃げ場を失い、どうしたらいいのかわからず鼓動が早まっていく。


「…悪かった、この前」

ふたりの間に流れていたどんよりとした空気を切り裂き、口火を切ったのは水瀬だった。
こちらに視線を向けるでもなく、手にしたビールジョッキを見ながら謝罪の言葉を口にした。

「爽に嫉妬して、思ってもないこと言った。ごめん」

こちらを見ていない水瀬に伝わるかはわからなかったけど、何を返したらいいのかわからなくて、ただこくんと首を振った。

「いいよ」って言うのは違う。
気にしなかったわけじゃないから。

むしろ気にしすぎて泣きたくなるほどだったのだから、そう簡単に「いいよ」だなんて言ってやりたくはない。

でも、今回のことで水瀬が本心で言ったのではないと確信できたから。


『まさかお前、自分が担当降りようなんて考えてないだろうな』

『向こうの担当が変わったくらいなんだよ。そういうオヤジをメロメロに口説いてなんぼって言ってたのはお前だろ』

『水瀬の名前なんかじゃなく、お前の営業で契約が取れるはずだ』