「莉子先輩!」
化粧が崩れない程度に目と頬を手で拭いて涙の痕を消す。
無意味かもしれないけど、やはりこんなことでぼろぼろ泣いていたなんて恥ずかしい。
「爽くん」
「…やっぱり。ひとりにしなければ良かった」
振り返った私の顔を見てそう呟いた爽くんは、やはりエスパーの家系なのか、私が泣きそうだったことなんてお見通しだったらしい。
「大袈裟。大丈夫だよ。美味しいココアも飲んだし」
私達のやり取りを見ていた水瀬が怖い顔で爽くんを睨む。
その鋭い視線に怯んでしまい、私は何も言えずにふたりの側で俯くしか出来ない。
「爽、何があった?」
「蓮兄には関係ないよ」
私が見たこともない鋭い射抜くような視線で睨まれているというのに、爽くんは飄々と答えて言う。
「俺らまだ仕事残ってるから戻るよ。蓮兄はもう上がり?」
「佐倉」
爽くんに聞いても埒が明かないと踏んだのか、質問に答えることなく水瀬は私に視線を移す。
「俺には…言えないことか?」
その一言で、私の中の何かがプチっと音を立てて切れた。



