いつも辛いことがあった時、話を聞いてくれたのは同期である水瀬だった。
仕事の話だけじゃなく、彰人の浮気疑惑の時も、きっぱり別れた時も、側にいてくれたのは水瀬だった。
今日の営業先での出来事がショックで悲しくて、ひとりでいたくなくて。
そんな時に真っ先に一緒にいてほしいと頭に浮かぶのは水瀬なのに。
『…あいつが、社長の息子じゃなくても?』
そう言われた事実が頭から離れない。
いつもなら何も考えずに愚痴っていたはずの出来事も、爽くんに『社長の息子』というカードで庇ってもらってしまった今、水瀬には話せない。
風邪の看病をして、早速見返りの恩恵に与ったと取られかねない自分を見られたくない。
「…なんでもない」
「そんなわけないだろ。何があった?」
長身を屈めて私の顔を覗き込もうとするのを、一歩引いてあからさまに拒否をする。
俯いたままだから表情は見えないものの、ハッと小さく息を吸い込んだ呼吸音がやけに悲しげに耳についた。
「あくびしたらまつげとゴミが目に入って心の汗が出た」
「佐倉」
バカみたいな言い訳に乗らなかった水瀬の手が私の頬に触れようと伸ばされた時、後ろから車を置いてきてくれた爽くんがその場にそぐわない大きな声で私の名前を呼んだ。



