溺愛予告~御曹司の告白躱します~


この時間のエントランスは、ショールームも閉館しているので人も少なく、お客様用のエスカレーターも止まっていてとても静かだった。

カツカツとくたびれた黒いパンプスの音が響く。
心なしかいつもよりも音が重い気がする。そろそろこのパンプスも変え時かもしれない。

歩きやすく、時には走れるようにデザインよりも機能性重視で履いているこの靴。
いっそ細く高いヒールのパンプスに変えてみようか。

化粧だってもっと濃くしてハッキリした雰囲気になるようにして、出来る女のオーラを出して、今日みたいなことがないように。

そうすれば、こんな泣きたくなるほど悔しい思いをしなくて済むんだろうか…。

詮無いことを考えながら歩いていくと、無人になった受付の奥にあるソファに一人ぽつんと座っているスーツ姿の男性が見えて足を止めた。


「佐倉」

私を見つけると立ち上がりこちらに駆け寄ってくる。
その姿を見て、ギリギリで保っていた涙が一気に溢れてきてしまった。

なんで今、いちばん会いたくないやつに会ってしまうのか。
どうして人が弱っている時に来てくれるのか。

「佐倉?どうした?」

立ち止まったままぼろぼろ涙を零す私を見て驚いた声を上げる。
それに答えることなく、私は下唇を噛み締めてなんとか涙を止めようと俯いたまま。