「ありがとうございました。美味かったです」
「ううん、食欲があって良かった」
「莉子先輩の顔見たら、風邪も吹っ飛びました」
調子のいいことを言う爽くんに苦笑しつつ、こんな超高層マンションならそうと書いてほしかったと睨む。
「じゃあ完全に治ったら三発くらい殴ってもいい?」
「なんで?」
「凄いとこ住んでるんだね」
「俺も蓮兄も親の持ち物に住んでるだけです。腐っても建築会社の息子だしね。この部屋どうですか?」
「…広いし白いし掃除が大変そう」
「そこ?!」
面白そうに笑う爽くんを見ながら、今日の水瀬の言葉が脳裏に浮かぶ。
『なんでそんな無防備なの。爽の勝率なんて全く興味もないけど、相手が落ちなかった話なんか聞いたことない』
『そんな奴と組んでおきながら大丈夫って言う佐倉の考えがわかんないわ』
『…あいつが、社長の息子じゃなくても?』
顔を覆って蹲りたくなる衝動に必死に耐える。
もう考えたくないと思うのに、どうしても頭の中から出ていってくれない水瀬が憎々しく感じた。
眉間に皺を寄せて考えていたせいか、不思議に思ったらしい爽くんが声を掛けてきた。
「…何があったんですか?」
「え?」
「水曜だし、蓮兄と飲んでたんでしょ?」
うどんを食べ終えて病院で処方された薬を飲んだ爽くんは、お茶の入ったグラスを持ってダイニングテーブルからソファに移動してくる。
そろそろ帰ろうとしていたところに隣に座られてしまってタイミングを逃してしまった。
さらに今まで水瀬といたのをズバリ言い当てられて驚いたけど、特に隠すことでもないので頷いた。



