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爽くんのマンションは、会社の最寄り駅から六駅。
送られてきた住所と地図を頼りに、近くのスーパーでレトルトのお粥やうどん、お茶やスポーツドリンクを買い込んでマンションへ向かった。

着いた先で何度スマホとにらめっこをしたことか。
とんでもない超高層マンションに辿り着き、私は顔を引きつらせながら一人大きすぎるエントランスをくぐる。

ホテルでもないのにコンシェルジュのおじさまに出迎えられ、慌てて名乗ると「水瀬様から承っております」と部屋番号とその階に行けるエレベーターの場所を丁寧に教えてもらった。

激安と書かれたビニール袋を持っている自分がとんでもなく居たたまれない。
風邪が治った暁には何発か殴っても許されるだろうか。


「ありがと、莉子先輩」

買ってきたものを渡してすぐにお暇しようと思っていたのに、出てきた爽くんが思った以上に顔色が悪くて帰るに帰れず、結局キッチンを借りて生姜たっぷりの卵うどんを作った。

そういえばこの前水瀬に王子様じゃなく玉子様って送ったらちゃんとツッコミの返事が来たななんて、水瀬のことを考えてしまい振り払うように頭を揺らす。

一人暮らしにそぐわない程大きな四人掛けのダイニングテーブルに座り、おでこに冷却シートを貼った爽くんはふうふうと冷ましながらうどんを啜っている。

私は少し離れたリビングのソファに座らせてもらい、自分で買ってきたペットボトルのお茶を片手にその様子を盗み見る。

体調が悪いせいでいつもは緩めにセットされた髪も無造作というよりボサボサで、格好も部屋着のTシャツにスエット。

そんな姿でもやはりイケメンパワーは健在で、熱で火照った頬や潤んだ瞳が色気を演出するんだから、整った顔立ちと育った環境の良さというのは凄いと恐れ入る。

さすが王子だなと頭で考えていたところでまた水瀬の顔が浮かび、振り払ったはずの思考に囚われる。