じわりと滲んできた涙を意地でも見られるものかと歯を食いしばり、身体を捻って鞄から財布を取り出して一万円札をカウンターに置いた。
「佐倉」
水瀬とふたりで食事や飲みに来た時は、基本的に完全な割り勘にしている。
可愛らしい女の子と違って私はよく食べるし飲むし、付き合ってもいない男性に奢られる理由はない。
最初の頃こそ「女に金なんか出させられない」とよくわからないプライドを発揮していた水瀬だけど、「私が『女だから』って言われるの嫌いなの知らない?」とわざと睨みつけると渋々割り勘を受け入れてくれた。
それだって、私の考え方をわかってくれたんだって思っていたのに。
同期として対等でいると思っていたのは私だけだったんだ…。
「これで払っといて」
一言告げてスツールから降りると、まるで「行くな」というように腕を掴まれる。
その力強さにまた性懲りもなく自惚れた希望が芽生えそうになるのを、先程浴びせられた言葉を反芻して打ち消す。
私の腕を掴む水瀬の顔は、何かに傷付いたように悲痛に歪んでいて。
その表情にズキリと胸が痛んだけど、それ以上に傷付けられたのは私のはずで。
なぜ水瀬がそんな顔で私を見るのかがわからなかった。
とにかく今はこれ以上水瀬といたくない。
掴まれた手をそっと外し、私は振り返ることなく焼き鳥屋さんを出た。



