私から『してもいいよ』なんて言えば、まるで私がキスをしてほしいみたいじゃないか。
かといってここで『ダメ』と言えば、なんだか後々さらに追い詰められる予感がする。
失敗した。
やっぱり反論なんてしなければ良かった。
水瀬は私の思考を寸分違わず理解しているらしく、可笑しそうにこちらを見ている。
「いや、だって。…シャワー、とか」
寝室まで連れて来られてまだうだうだ言っている私の言葉を遮るように、焦れた表情でとんでもないことを言い出す。
「…風呂なんか寝る前に入ればいいだろ」
「え?寝る前って」
「当然泊まってくだろ」
何をもってそれを当然とみなすのか。
ついてきた私も私だけど、強引に連れてきて当然泊まってくだろうってどういう了見だ。
「ちょっと待って!泊まりの準備なんてないよ」
「大丈夫。コンシェルジュに頼めば買ってきてもらえるから」
「え!」
そんなホテルみたいなサービスが。
高級マンションって凄い。
住宅系の営業の人ってこんな商材扱ってるのかぁ。
この物件も水瀬ハウスのものなら、尻込みしないでエントランスとか建物の造りをもっとしっかり見ておけばよかった。



