「爽くんにターゲットにされた時も、彼なりに本気で告白してくれた時も。すぐに『ごめんね』って返事が出来た。でも…」
「……でも?」
「その時、爽くんに言われて気付いたの。あの同期会で水瀬が言ってくれた時、散々恋愛はもういいって自分に言い聞かせてたくせに…『ごめん』の一言が言えなかった…」
ズルい自分に気が付いた。
応えられないと思いながら、水瀬から差し出された手を振り払うことが出来なかった。
キスされて、好きだと言ってもらえたのが嬉しかった。
『ごめん』なんて言えなかった。言いたくなかった。
だって…、だって私は……。
「ほ、…本当に、私でいいの…?」
「佐倉がいい」
「私…見ての通り普通の見た目だし、別にスタイルだって良くないし、めっちゃ仕事出来るって程でもないし、父親は酔っ払うと『星空のディスタンス』熱唱するようなただのサラリーマンだし、炊飯ボタン押し忘れの日本記録持ってそうなくらいうっかりなポンコツ主婦の母親に育てられたような女だよ?」
「ははは!何それ!いいな、佐倉の両親っぽい。俺も会ってみたい」
「ちょ、そうじゃなくて…」
「いいんだって」
ソファの上で繋いでいた手をグッと引き寄せられ、すぐ目の前の水瀬の胸にすっぽりと収まる。
「見た目とか育ちとか、そんなんどうでもいいくらい佐倉がいい」
「水瀬…」
「あと不安なことは?」
抱き締められた腕の中。



