「…王子の流儀はどこ行った?」
「莉子先輩が泣いてるのに、そんなこと言ってらんないです」
抱きしめる腕は優しいのに絶妙に振りほどけない力加減で、やはりこの人は女慣れしてるんだななんて冷静に考える自分がいた。
「…ごめんね」
「蓮兄にも、告白されました?」
「……うん」
「ごめんねって言えました?」
ハッとして顔を上げる。
爽くんに言われて改めて気付く。
私は水瀬に告白されておきながら、なにも答えなかった。
想いに応えられないと思いつつ、ちゃんと断ることも出来なかった。
なんてずるいんだろう、私は。
水瀬の告白に応える自信も、自分の気持ちに向き合う勇気もないくせに、他の女性と歩いている彼に一丁前に嫉妬している。
好きではなくなった彼氏が浮気をするのを許せなかった過去の自分から、何一つ成長していない。
一昨日の自分の姑息さに唇を噛む私を抱き締めながら、爽くんは少し不貞腐れた顔をしていた。
「最初は蓮兄が手こずってる相手がどんな人なのかなって興味があっただけなんです」
顔を見られたくないのか、後頭部を押さえつけられてスーツに顔を埋めてしまう。



