咄嗟にそう言いかけるが、すぐに思い出した。
 私は財布を持っていない。ここの最寄り駅までの電車賃だって切符をもらっただけで、気づかない内に彼女が出してくれていたんだ。


「いい、私が好きでやっているだけだから。それよりも、座って」


 立ち上がった彼女は、感情の起伏を読み取れない淡々とした返事をくれると、変わらぬ無表情で椅子を差し出してくれた。


 良いわけない。
 私はお金の話に敏感だ。なにせ、お金は私の首の皮一枚を繋ぐ一つのアイテムで、特に今日はそれを稼ぐのにすごく苦労した。あいつらに盗られて水の泡だけど。


 良いわけがない……。
 なのに、今の私には為す術がなかった。お金の力は偉大だ。性格の悪いこんな私でも、彼女の言う通りにしてしまうくらいに。
 何も言えないまま顔を伏せると、大人しく椅子へと腰を掛ける。すると、彼女は押入れからなんだか親近感の湧く箱をこちらへ持ってきた。