「あっ――」


 ずるりと足が滑る。
 体勢を崩し、前へと転びそうになるけど不思議と痛みを感じなかった。


「滑ると先に言っておけばよかったわね、ごめんなさい。……大丈夫?」
「っ――」


 いつの間にか、この子に抱かれていた。滑りそうだとは思っていたのに、慣れないことをするからこんなことになる。でも……。
 こんなに足場も悪いのに、傘の内側へと入って私を抱きとめてくれたこの子は何者なんだろう。その白い顔と無表情も相まってか、不気味に見える。幽霊じゃないかと思うくらいに。


 ううん、助けてくれたのにこんな考え方するのは良くない。私は体勢を立て直すと、感謝の言葉を述べた。


「別に……助けてくれなんて言ってない。それに私を抱きとめたら、もっと服が濡れちゃうよ」


 我ながら嫌になるほどの憎まれ口。これが感謝の言葉? 冗談じゃない。
 でも、私にあんまり関わるべきじゃない。これくらい強く言って、明日からはゼロの関係へ戻れれば――