「う……う……んん」


 目が覚める。なんだか温かくて体が揺れているのがわかった。


「奏様、お目覚めになられましたか?」
「あれ……私……」


 どうやら私は総一朗さんにおぶられているようだ。さらに毛布にも包まっている。
 そっか、私は屋敷を飛び出した後、眠っちゃってたんだ。


「ごめんなさい……私、すっごい迷惑を……」
「いいえ、私めが至らぬことを言ったばかりに」
「そんなことない……です。私が勝手に混乱しただけで……あの、雨は?」
「奏様を追おうとしていたところを止め、お屋敷の方にてお待ちいただいております」
「そうですか、雨が私を……」


 やっぱり私を追おうとしてたんだ、すごく悪いことしちゃった。


「とても心配しておられました。あのような姿のお嬢様を見たのは初めてで」
「どういうことです……?」


 総一朗さんに初めてみせる雨の姿というのが、私には理解できない。


「お嬢様が誰かを心配することなど、私は一度足りとも見たことがなかった。これもまた奏様に出会うことができたからかもしれません」
「私と出会って、雨が変わったってことですか?」
「ええ、それはもう。今回、こちらへ帰ってきた時、別人かと思ったくらいです」
「そうですか……」


 私にはわからないわけだ、彼女の過去を知らないのだから。でも、総一朗さんがこういっているということは、雨はもっと淡々とした子だったのかもしれない。夢の中の雨がそうだったみたいに。
 あの頃の雨、今の雨。その二つを合わせて変わらないもの、その疑問が膨らみつつあった。


「あの……総一朗さん。雨のことについて、もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「私が知っていることならば」