「雨……。私が取り調べを受けてるとき、警察を止められたのはなんで……?」
「私自身が止めたわけではないわ。実際は総一朗のおかげ、彼はとても顔が広くて警察関係にも顔が利くのよ」


 そんなドラマみたいなことを信じろって言うの? ありえるわけがない。でも、雨が嘘を言わないことを、私は知ってる。知っているからこそ、余計に混乱する。


「じゃあ、どうして? 何の取り柄もない、何もないはずの私に、どうしてこんなに良くしてくれるの⁉」


 ずっと、ずっと聞きたかったことだ。何度聞こうとしてやめたか、きっと雨だって知っていたはず。


「それは、私が奏に生きてもらいたいから、奏の生きる理由になりたいからよ」
「そう思ったわけを私は聞きたいの! それはなんで、どうして⁉」
「…………」


 雨が押し黙ってしまう。
 私が雨を困らせてしまっている、彼女自身にも『わからない』ことなのかもしれないのに。


「そうなんだ、教えてくれるって言ったくせに言わないんだ」


 やめて、なんでそんなこと言うの。雨にだって『わからない』ことがあるんだよ。雨だって人間なんだよ! だから、酷いこと言わないで!
 そんな気持ちとは裏腹に私の口は止まらなかった。


「嘘つき、信じてたのに」
「奏、待って」


 私は食堂を飛び出そうと彼女に背を向けたが、体は前に進むことを許さなかった。
 右腕が雨に掴まれたからだ。


「お願い、待って」
「……っ離してよ。これじゃ、私……自分が嫌になっちゃう……だから……離してよっ!」


 右腕を力いっぱい振ると雨の手は私から離れ、食堂から飛び出すことに成功する。
 そのまま私は玄関の扉を開き、外へと飛び出した。
 雨は追ってこない。罪悪感だけが私の心を支配していく。
 雨を傷つけて何が楽しいの、どうして私は雨にあんなことを言ったの? 全部、自分勝手だ。自分の思い通りにならないから、あんなことをした。雨に返しきれないほどの恩があるのに、それを仇で返すような真似。


「馬鹿だ……私、大馬鹿だ……うっ……ぐすっ」


 涙を袖で拭いながら、真っ暗な森の中を走っていく。
 空が見えないほどに鬱蒼とした木々、上を見ながら走っていると、