「世界に多数あるミヤノジョウグループというのをご存知でしょうか? その宮之城(みやのじょう)家の長女として生まれたのが、宮之城 雨様でございます」
「え? ミヤノジョウグループって……」


 冗談としか思えなかった。
 ミヤノジョウグループと言えば世界でも有数のトップ企業。
 日本には会社を置いていないのにも関わらず、日本のテレビコマーシャルにも出ていたりして、この国でも知らない人はほとんどいないだろう。私なんかじゃ逆立ちしても、入ることができない企業。世界の誰もが知っている、そんな企業だ。


 雨はそれに関わるどころか、長女……?


 そんなわけがない、雨の名字は宮城(みやぎ)だったはず。宮之城だったとすれば、なんで嘘をついたの?
 私は傘を机の上に置き、総一朗さんの隣を通ってすぐに雨の元へと向かう。
 彼女は食堂で待っているはず。
 階段を駆け下り、私は食堂の扉を開けた。


「奏、待っていたわ」
「雨……!」
「どうしたの?」


 私は椅子に座っている雨の前まで歩み寄る。


「雨は……宮之城家の娘なの……?」
「ええ、そうよ」
「どうして……雨は宮城じゃ……」
「学校ではそう偽名を使っていたわね。でも、奏にはちゃんと名前を伝えておいたはずよ」
「え…………?」
「私の名前を初めて聞いてくれた時のことよ」


 そんな……知らない、知らないよ。そんなの。
 目を泳がせながら二歩、三歩と私は後ずさりして、その場にへたり込む。


「……あの日の奏、とても疲れていたから。もしかしたら聞こえてなかったのかもしれないわね。もし、ショックを受けたのだったらごめんなさい」


 そうだ、この家に来た時に見た表札だって宮之城だった。気になるなら聞いておけばよかったのに聞かなかった私が悪い。
 雨は隠してなんていなかった。雨の名前を聞いた時、確かに少しだけ聞き取れなかった思い出がある。でも、知りたかったのは名前だったからそこまで気に留めなかったんだ。
 言葉が止まらない、一度聞いてしまえばもう止まらなくなる。