私は照れくさくなってしまい、また笑いを零してしまう。
 それから私たちは頭と体を洗うのを済ませ、湯船に浸かりに行くことになった。
 自宅のマンションでも湯船に浸かるが、やっぱり大きなお風呂の湯船はさらに気持ちがいい。広いとなんとなくリラックスできる感じがする。


「体の疲れが取れてくよー……眠くなっちゃう……」
「奏、こんなところで眠ったら溺れてしまうわよ?」
「そうなったら雨が助けてくれるでしょー……」
「それはそうだけど、裸でお風呂から上がるつもり?」
「……! そ、それは嫌だ」


 今は痣も無くかろうじて見られてもいい体……じゃないけど、倫理的によろしくないのは明確。裸のまま総一朗さんのお世話になるのも流石に嫌だ。
 私は顔にお湯をかけると、当初考えていた話を思い出した。


「それじゃ雨とお話をしようかな」
「どんな話?」
「そうだねーそれじゃ――」


 大切な話を聞くのはここじゃなくていい。初めて友人とお風呂を一緒にすることになったのだ。だから、もっと楽しいことを。
 そう考えながら少しの間、私と雨は裸の付き合い……というか、とりとめのない話で花を咲かせていった。
 お風呂を上がってから、総一朗さんがすぐに私たちへ頭を下げに来てくれた。雨は「過ぎたことだから」と諭していたが、もしかしたら総一朗さんは私の為に雨と話す時間を作ってくれたのかもしれない。私は困ったような顔しか作れなかったけど、心の中でお礼を告げておく。雨もなんとなく満更ではなかったみたいだし。


 それから私たちは朝食を頂くことになる。お昼は彼女と共にティータイムを楽しみ、夜になるとディナー。そして夜通し彼女と話す。


 次の日も、その次の日も私はそうやって楽しい時間を過ごした。


 それでもどうして雨が何も言ってこないのか私は知っている。私自身も覚えている。ここへ来た本当の理由をまだ終わらせていないことを。
 多分……ううん、ぜったい。雨は私が聞くのを待っている。このまま聞かないでマンションに帰る道もあるだろう。聞いたところで実際に何がどうなるってわけじゃないのかもしれないけど、私はその一歩をまだ踏み出せずにいた。


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