「ふわぁー……んん、もう朝……」


 雨のマンションのリビングよりも広い部屋。
 次の日、私はカーテンの隙間から差し込む朝の光を浴び、目を覚ました。
 結局、昨日のことはあんまり覚えていない。部屋の用意ができたと思ったら、私はお風呂も入らずにすぐに眠ってしまったようだ。


「うぅ……冬だと言っても、体がベタつく……。お風呂もらおうかな」


 独り言を呟きながらバスタオルと着替えのすべてを手に取り、部屋の扉を開ける。
 とりあえず執事の……総一朗さんと言っただろうか? 彼か雨を探して、お風呂の許可をもらおう。
 一階へ降りると総一朗さんが玄関の扉を開け、家へと入ってくるのが見えた。どこかに出かけていたか、庭の手入れでもしていたのだろう。
 彼は私の存在に気がつくと、「おはようございます」と手を胸に当て深々とお辞儀をしてくれた。


「奏様、いかがなさいましたか?」
「おはようございます。あ、えっと……お風呂を頂きたいなと思って」
「左様でございますか。それならば、そちらのドアを潜られましたら脱衣所。その奥の扉に浴場がありますので、ご自由にお使いください」
「た、助かります」
「それでは、朝食の準備がありますゆえ」


 そこまで言い終えると私の元から総一朗さんは去っていく。流石にこう丁寧に言われてしまうと恐縮してしまう。相手も仕事なのだから仕方のないことだろうが。
 私は気を取り直し、先程総一朗さんが手を向け教えてくれた扉へと向かった。
 やはり大きなお屋敷なだけあって脱衣所も広い。私は汚れた服をすぐに脱ぎ、すぐさま浴場へと足を進める。


「――んうっ⁉」


 扉を潜った途端、私は腕を取られ背中へと回された。が、すぐにその腕は解かれることになる。


「奏……? ごめんなさい、私ったら」
「え……あ、雨?」


 振り返ると、白い湯気の中に赤い眼の女の子が見えた。
 この湯気のせいで、私は雨の姿が見えなかったわけじゃない。
 雨からしてみれば多分、誰かが入ってきたことに気づき物陰に潜んでいたのだろう。どうしてこんなことを? とは思ったけど、すぐに謝ってくれたので悪気があったわけじゃないのはわかった。
 私は手で体を隠しながら、顔を背けている雨へ話しかけた。