「貴女がいたから私はここに存在できる。こんな苦しい世界でも、貴女さえいてくれれば生きていける。本当にありがとう。大切な友人へ私から送りたいの、ハッピーメリークリスマス、雨」


 両手でプレゼントを雨へと手渡す。
 きっと、とっても気障ったらしい言葉だったと思う。けど、ちゃんと私の言葉でそれを伝えられた。今度こそ、ちゃんと。


「おかしいわ、なんて言っていいか検討がつかないの。……奏、これを開けてみてもいいかしら」
「……うん、開けてみて」


 雨が言葉に詰まるなんて、本当に珍しいことだった。それについて私は答えず、だけど、なんとなく想像がつく。でも、想像の範囲内だけだ。


「このラッピング、すごく大変だったでしょう? とても心が籠もっているように思えるわ」
「開けるのが大変って言ってくれてもいいのに……」


 こういうことを言われるのは、ラッピングしたのが私だってバレているということ。
 あれだけ拙いものだし、バレても仕方がない。けれど、雨に心が籠もっていると言われ、正直嬉しかった。
 ようやくラッピングを半分ほど開け終えると、


「……これは」


 雨はそれだけを呟く。先程の丁寧な解き方とは一転、まるで子どものようにそれを取り出していく。
 ビリビリと破れていくギフトラッピング。後に捨てるものだし心が痛むことはなかったが、それでもさっきまで彼女は綺麗に解いていたのだ。
 それが今では……。こんな姿の彼女を、私は一度すらも見たことがなかった。


「ちょっ、雨⁉ 急にどうしちゃったの!」


 包装紙を破りきり中身を取り出し終えた雨は、その真っ赤な傘をギュッと抱きしめ、座り込んでいく。


「ごめんなさい……奏……体が、止まらなかったの……」
「ううん、……それより雨、その傘、何か変だった?」
「違う、違うわ……」


 俯いたまま雨は否定を示すと、ゆっくりと顔を上げてくれる。


「ありがとう……奏、こんな素敵なプレゼントを貰って、私は……私は……」
「あ、雨⁉」


 驚きを隠すことなんてできなかった。多分、生まれてきて一番驚いた瞬間だろう。
 いつもは感情を見せない雨。その彼女の顔はいつもと同じ、無表情のものだったけど。
 なぜ、私が驚いたか。だって、それは。


 雨が持つ、とても綺麗な赤い眼からは、真珠のような涙が溢れ出していたから。