「奏、心配というのは……何なのかしらね」
「言葉の意味もわからず、使ってたの……?」
「あまりわからないのよ。けど、使うのならその言葉が適切だと思っていたから」
「……心配っていうのはね――」


 続けようとした瞬間、そこで言葉に詰まってしまう。
 日常的に心配という言葉を使っているけど、考えてみれば私自身にもよくわからない言葉だ。
 心配という言葉が既に意味を持ち、それ以外の意味が私の中からは出てこなかった。


 それでもなんとか……。
 なんとか絞り出そうと言葉を繋ぐ。


「……何かが心に引っかかる出来事を思って言うのかもね」
「心に……引っかかる」


 雨はその言葉を呟くと、考え込むように何も喋らなくなってしまう。
 上手く言えたかは自信がない、でも心に何か引っかかるから人はその言葉を使うんじゃないだろうか。
 じっとしてる雨を労りながら、私は彼女の手へ綺麗に包帯を巻ききる。


「雨、傷が思ったよりも酷い。病院に行ったほうがいいかも……」
「…………」
「雨、聞いてる?」
「……ええ、でも大丈夫。奏の治療よりも効く治療があるとは思えない」


 何を根拠にそんなことを言っているのかはわからない。怪我の手当はそれなりにできるだろうけど、やはりプロに敵うわけがないのは明らかだ。
 雨は先程の言葉をずっと考え込んでいるようで、私もこれ以上、話しかけることはできそうになかった。
 時間も遅くになり、今日はこれでお開きにする。


 雨のことが心配。


 その言葉の意味を私自身も考えながら布団に潜り、今日を終えるため、ゆっくりと眠りに落ちていくことになった。