「怪我したのは手、だよね。見せて」
「……ええ」


 両掌を私に差し出してくれると、そこには血で赤く染まった包帯が適当といった感じで巻かれている。
 器用な雨がこんな風に巻くことしかできなかったなんて、一体何が――


「電話を切った後、躓いて転んでしまったの」


 私の疑問に雨はそう答えてくれる。


「躓いたってそんな……」


 考えるだけで自分の顔が歪んでいくのがわかる。それが本当だとしたら、痛いってものじゃなかっただろう。
 嘘であってほしいなんて考えていた。だけど、適当に巻かれた包帯をスルスルと取っていけば、それが嘘じゃなかったんだと思い知らされることになる。


「っ……」


 目を塞ぎたくなるような傷だ。どちらかの手だけだと思ってたのに……。
 ザックリと切れた両掌。中心にはかろうじて傷はなく刺さってなかったようだけど、代わりと言わんばかりに掌の端には集中するように何箇所もパックリと割れていた。
 血はまだ止まっていない、病院に行った方が絶対にいいはずだ。


 私は歪めた顔のまま、止血をとヘアゴムを探す。
 もちろん、救急箱にはそんなもの入ってるわけがない。
 急いで自室へと戻り、ヘアゴムを見つけるとすぐに彼女の元へと戻ってくる。
 この程度じゃ効果は薄いかもしれないが、何もないよりは縛ったほうがいい。


「……うぅっ……痛かったよね……」


 いろいろな痛みを知っているせいで雨の置かれた状況に感情移入してしまい、彼女の両腕にヘアゴムをつけながら涙を零してしまう。
 自分ならどうってことないのに雨がこんな思いをするとなると、どうして胸がこんなに痛くなるのだろう。


「少しだけ我慢してね……」


 消毒液をその傷口へと落としこむ。激痛だろう、私は何度もこんな激痛を味わってきた。けど彼女は、


「奏、ごめんなさい……」


 無表情のままで私に謝る。
 とても痛いはずなのに、苦痛にその顔を歪めることもなく、いつもと変わらない表情で私を見つめていた。


「どうして謝るの……痛いのは雨なのに」
「奏にそんな顔をさせてしまっているから」
「……! 私の心配するより自分の心配してよ!」


 思った以上に大きな声でそう言ってしまう。
 居心地が悪い、この状況を例えるなら自業自得という言葉が似合うだろう。でも、さっきの大きな声は心配から来るものなのだ、少しくらいは許して欲しい。
 そこからは何も喋らず丁寧に包帯を巻き始める。