「私にはわかるんだよ。何度も殴られて、何度も血を流したことあるから。この血の匂いはね、それなりの血が流れたはずなんだよ」


 赤い眼が少しだけ揺れる。
 多分、雨は両腕のどちらかを怪我してるはず。隠されればもっと心配になるのに。


「電話した時は怪我、してなかったんだよね?」
「ええ」
「じゃあ、片付けてる最中に怪我を負ったの?」
「違うわ」
「でも今は怪我をしてるんだよね」
「…………」


 雨は嘘をつかない、どちらも本当のことなのだろう。無言は私に心配をかけないため。けど、その無言は肯定の意味にしか取れない。
 何がどうなって怪我をしたのかはわからないけど、怪我をしていることは事実のはずだ。


「……馬鹿。私は怒ってないし、隠される方が心配だからちゃんと言ってほしい」
「私を心配している?」
「そうだよ。雨はいっつも私を心配してくれてるでしょ? 私もそうなんだよ」
「……そう、それは知らなかったわ」
「なんで? 考えたらわか――」


 ふいに言葉を止める。
 電話では雨は遅くなった私のことを心配していると言っていた。他の時も、心配してるという言葉を何度も聞いたことがある。
 雨の考える心配の意味は私と同じはずなのに、どうして雨には私が心配していると伝わらなかったのだろう。
 いや、本当にわからなかった……の?
 ……ううん、今は……今は怪我の方が先決だ。


「……雨、怪我したところ見せて」
「それは――」
「いいから! ……お願い」


 不機嫌なわけじゃなかったけど、語気が少しだけ強くなってしまう。
 雨は大人しく従ってくれて、彼女を白いソファへ座らせると私はすぐに救急箱を持ってきた。