『どうしたの? 奏』


 今すぐ、迎えに来て……。


 そう言いたかったけど、このプレゼントを見られるわけもいかず喉の奥で止め、押し込む。
 急に雨に会いたくなった。私は彼女に依存しきっているんだとつくづく思い知らされる。私自身は嫌ではないけど、雨に知られるのは嫌だった。


「ううん、割れたガラスは私が片付けるから雨はゆっくりしてて」
『……奏がそういうなら』


 少しだけ声に力を込めて言えば、雨は従順に従ってくれた。
 家に帰ってからは部屋に荷物を置いて、ガラスの片付けだ。
 青に変わる信号、私は横断歩道を渡りながら話を切り上げる。


「それじゃ、また後でね」
『ええ、気をつけてね』


 今、気をつけるのは雨の方でしょうと内心思ってしまうが、言わないのがお約束。
 急いで帰ろう、怪我はしていないと言っていたけどやっぱり心配なものは心配。ここから家までは、そう遠くない。歩いても一駅程度だ。


 どんなに明るくとも、細い夜道は暗い。


 だが運が悪いのは治っていなくて、長い物、ラッピングしてある傘を持っていたせいか巡回中のおまわりさんに職務質問を受けることに。
 それを拒むわけにもいかず、中身を見せなくちゃいけなかった。
 それだけならまだいいものの店員さんに施してもらった綺麗なギフトラッピングは、見る影もない無残な姿へと変えられてしまう。


 ようやく開放され、憂うつな気分で家に帰り着いたのが夜の10時半。
 当たり前だが、長い時間、割れたコップをそのままにしておくわけにもいかなかったのだろう。破片は雨が片付けてしまっていた。
 どうして片付けたの、なんて文句を言えるわけがない。
 だけどこの時、私は雨の様子がおかしいことに気づくことになった。