言葉をすぐに返せないということは、私は自身が雨の事が知りたいという気持ちを諦めていないということ。
 雨はなんでも答えると言ってくれていたけど、雨自身も自分のことについて話すのは苦手なのかもしれない。だからこう言ってるのだろう。


 私が雨のように考えを読み取れたり、もっとわかっていられたなら、雨は少し楽になるのかな。
 いつの間にか聞いてはいけなかったと思っていたはずなのに、一つ踏み込んだ影響で彼女を知りたい欲求が出てしまう。
 これで本当に……本当にこれでいいのだろうか?


「奏、私と過ごし始めてから不幸じゃない?」


 急にそんなことを言われてしまう。どうして彼女がそんなことを言うのか、わからない。
 私は今の生活に充実した気分を味わっている。死んだ人間や事故にあった人はいるが、どれも因果応報なものばかり。
 今回、警察に連れて行かれたのは運が悪かっただけで、それも雨の力によってすぐに開放してもらえた。
 結果的に何事もなくこうしてこの家へと戻ってこられている。だから、不幸だなんて思わない。


「不幸だとかそんなことないよ。私、こんな最低な世界でも、雨がいるなら生きててもいいって、そう思えるんだから」


 それは本心だ。彼女について知りたいのはもう止まらないけど、知ったとしても嫌いになんかなれない。
 けど、雨は。


「ごめんなさい。私は貴女を不幸に……」


 ……どうして、不幸になんて思うの? 私はそんなこと思ってなんかいないのに。
 雨は迷信を、噂を信じているの? 彼女の周りにいる者が不幸になるなんて、そんなの嘘っぱちなのに。
 そう思っていても私は雨に伝えることができず、この日の話はそれでおしまいに。
 しかし私は冬休み、彼女のお屋敷……実家へと赴くことを約束したのだ。