私は言葉に詰まってしまった。もう何を言っても無駄だとわかってしまって、大人しく連れて行かれた方が、早く終わるかもしれないと考えてしまう。


「…………」
「それじゃ、後ろに乗ってください」


 私の意見なんて最初からないも等しかった。諦めたように、私は黒い車の後部座席へと座り込む。車内の内装は普通の車っぽくはなく、無線などがあり覆面パトカーなんだと悟ることができた。
 運転席に一人の男が座り、私の隣、後部座席の左にもう一人の警官が座る。恐らく逃さない為だろう。


 ごめん、雨……私が料理を作るっていう約束、守れそうにないや。


 車がゆっくりと発進する。マンションの前を通り過ぎ、大通りの方へ。
 私は後ろを向き、マンションの方に目を配るとそこには――エントランスから飛び出す女の子の姿が見えた。
 咄嗟に私は大声を上げる。


「あ、雨……! っ……お願いします! 少しだけ車を止めてください!」
「…………」
「それがダメなら、せめて彼女に連絡だけでも入れさせてください!」
「とりあえず署に着いてからで」


 淡々と言う、中身のないセリフ。いつも無表情でいるけど、雨の言葉とは大違いだ。
 これが正義だと言うのか、私は拳を握りしめるが何もできないのは知っていた。何も悪いことなんてしていないのに、暴行なんて起こせば公務執行妨害で罪人とされるだろう。
 悔しい、雨がすぐそこに居たのに。私がすぐに諦めなかったら、あの話の間に彼女が入ってきてくれたかもしれないのに。


 ……また、甘えてる。雨ならなんとかしてくれると思ってる。


 良くない傾向だ。雨にとって厄介事ばかりを抱えてしまう私は、足枷でしかない。とても迷惑な存在だ。


 ああ……もう死にたい、こんな思いするくらいなら、いっそ殺してほしい。
 ねぇ、おまわりさん。貴方は拳銃を持っているんでしょう? もしそうなら、この場で今すぐ私の頭を撃ち抜いてよ。